光陰矢のごとし、早いもので人生の半分以上を日本で過ごしました。日本の方々と関わった数々の感動のドラマがありました。

 

最初の10年は、言葉の壁や人民元と日本円の価値差に翻弄されながらも、辛酸を舐める日々を送りました。音楽留学生としてヴァイオリンの練習もままならず、うなぎ屋で働き東京での生計を立てるために奮闘しました。思いがけない日本の方々の優しさと一方ならぬご好意やお力添えによって何とか苦境を切り抜けることができました。

 

 

 次の10年は、東京芸術大学の博士学位論文完成を目指し、学業と子育てを両立しました。すばらしい先生方のご指導も得られ、得難い音楽博士の学位をいただくことができました。またこの間、中国を追われてアメリカに亡命、その後客死した大作曲家馬思聡のヴァイオリン作品に携わり、それを広く紹介する機会に恵まれました。さらに、日本の作曲家である矢代秋雄、尾崎宗吉、貴志康一、助川敏弥の作品を発掘し、初演の機会もいただき、この上ない幸せを感じました。

 

 最近の10年は、演奏活動も順調な中、思いもよらず腎不全と診断され、人工透析や移植を宣告されたことに大きいなショックを受けました。心が乱れ、ヴァイオリンの音は、輝きを失いました。そんなどん底の時、ベートーヴェンの生き様や音楽によって精神が喚起させられました。ベートーヴェンは、人生のどん底を味わったのちに、世界の万人を歓喜させる音楽を作曲したからです。わが身に起こったことが些細なことに思えて、その音楽の波動に励まされ、限界を越えてみせる勇気が湧き、その音楽を生きる糧にしました。ベートーヴェンの運命を切り開く精神世界に触れることは、音楽家として、さらなるステージへの復活を意味することだと思い、自らを奮いたたせました。食事療法の実践、生き方の検証、病気改善を音楽家劉薇の人生テーマとして真摯に向き合い努力しました。その結果、病気を通じて多くの気づきを得ることができました。私は人々の心を感動する温かい音楽を表現するために、貴重な病気体験をさせてくれたと信じてやみません。

 昨年、その病気体験をまとめ、本を出版しました。この本は日本の病気で苦しんでいる人たちへの恩返しになればと思っています。これからもたゆまぬ努力をかさね、生きる証人となり、多くの方々の心に響く音楽を届けていきます。

 いまも舞台で演奏できる自分がここにいる事実に深く感謝して、前へ、前へ、前へと進みたい!